こんな人生じゃない

出勤。

いつもの駅前でビラを撒いていた。

「コロナウィルスに関してです」

興味ないから会釈して素通りする。

駅構内に入ろうとしたら別の人からもビラを差し出されるが、また会釈して素通りするが「お持ちください」と声をかけられ、なおも渡そうとしてくる。

頭の中で「お餅ください」と変換されたと同時、しつこいんだよババアと思った。

ここで喉まで出かかった言葉を飲み込むことができるから、ギリギリで社会生活をしていられる。

平穏な日常に潜む、孤独な低賃金労働の中年という地雷。

 

今日は仕事サボって銀行に行こうかと思っていたが、直ぐに終わる用件だろうと考え直して昼休憩のときに銀行に行くことにした。

 

チャイムが鳴り、一目散に仕事場の最寄りの銀行の支店に向かう。

 

輝かしい未来なんてウンザリだ、始められてすらないんだから。

約束は破られ続け、心は怒りで満たされた。

お前は知る由もない、知る術もない。

もしお前がこの立場になれば同じようにやってしまうだろう。

法を破れ。

法を破れ。

 

今日は嫌な客として振る舞うと決めていた。

窓口に行き、カードが使えなくなったことを低めのトーンで伝える。

しばらく待たされる。

別の銀行員のババアが対応する。

これこれこうで、とできるだけ不機嫌そうな態度かつ感情的にならないように伝える。

お時間はございますでしょうか、と言われて休憩時間を使って来てるから余裕がないとぶっきらぼうに返す。

少々お待ちください、と言われてまた席にかけて待たされる。

何やらバインダーを開いて書類を調べている様子。

なんともクラシックな趣き。

 

別のババア行員に呼ばれる。

繰り返し間違った番号を入力したためにカードはロックされ、手持ちのカードはウェブ取り引きのサービス終了に伴い使用自体ができないみたいなことを言われた。

わけわかんねぇ。

そもそも間違った番号を入力した覚えはないんだよ。

サービス終了で使えなくなるなら使用停止になる前に新しいカードを寄越せよ。

カードを新規発行しなければならないようだ。

新しいカードが届くまで、一週間から十日ほどかかりますがよろしいでしょうか、と言われ失笑、正に失笑したね。

あんた一週間、飲まず食わずで過ごせますかと問いたいね。

じゃあカードのロックを解除することはできないのかと聞くが、カードは使用できないの一点張り。

とことんゴネる構えではいたが、時間がない。

カードを新規発行して、口座から書類手続きで引き落とすという方法で事態を収める。

 

書類の記入事項を書き、印鑑を押す。

引き落とす額を記入する枠に¥140000と書く。

屈辱感。

銀行員のババアにこいつ手取り15万もないのかと思われたろうな。

 

ここからさらに待たされる。

待たされる。

待たされる。

露骨に腕時計を確認する仕草をして見せる。

そして待たされる。

休憩時間は過ぎた。

 

大変お待たせしました、とババア行員に呼ばれ現金を数え上げ渡される。

生気の抜けた顔で銀行を出る。

やっと帰った、と思われたことだろう。

 

違う。

こんな人生を送りたいわけじゃない。

人生が上手くいかないから、腹いせにババア行員に絡んでるわけじゃない。

良き行いをしたいんだ。